慶應義塾大学理工学部電子工学科  神成研究室

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先生からのメッセージ

「量子工学同演習」の講義において機会あるごとに話しましたように,これからは本格的な「量子の時代」です。皆さんが社会に出て中堅どころとして会社の研究開発をリードしているであろう,ちょうど10年後に日本がどういう産業で世界に君臨していなくてはならないか。

それは,人件費が安いだけでは他国が追随できない,量子工学を駆使したハードウェアと物理に裏付けされたインテリジェンスによるソフトウェアが一体化したブラックボックス的な工業製品に違いありません。

 レーザは,誕生してすでに50年以上を経ています。時間,波長,パワーの極限的な領域を除いては,ほぼ大学で新しいレーザ装置自体を研究する時代は終わりつつあります。これからは,量子力学を最も美しく実現できるレーザの本質的な能力をいかに使いこなすかを考え,その原理を実験室における学問だけに留めずに,今まで以上に難しい物理原理であってもユーザにとってはスイッチ1つで操作できるハードとソフトの協調を実現させるのがこれからのエンジニアです。

 我々の研究室は,そのためのひとつの手段として光のコヒーレンス(位相相関特性)を計算機で制御することに着目し,とくに超高速フェムト秒パルスレーザの時間域,空間域のコヒーレンスを自由に操って,制御された光子と物質の相互作用の構築をめざして研究を進めています。最近は,非古典的な光の状態をも制御しようという世界でonly oneの研究も展開しています。

 現在は,コア技術としての計算機制御フェムト秒パルスレーザを軸にし,半導体,分子反応,DNAタンパクといった対象の超高速物理を計測し,さらに制御する実験を展開しています。また,フェムト秒レーザ光の制御技術は,他にも,超高速ナノフォトニクス,バイオイメージング,光導波路加工,等に幅広く応用しています。常に斬新なアイデアを産みだし,実験からそれを実証し,パラダイムシフトを起こせるような新しい光の応用に狙いを定めて研究しています。この研究には,他大学,某企業が各テーマに参加しています。学生を外に送り出して研究するのではなく,この矢上の決して素晴らしい環境ではない1研究室の実験室に,こういった1流の研究者が集まってくること自体に溜飲を下げるおもいです。これも,「勝負する研究」であり続けるために,意欲的な戦略をたてて地道に研究を続けてきた研究室の学生諸君の努力の賜物です.

 我々のこういった特徴ある研究目的と業績により,2008年から文部科学省がスタートさせた「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」,通称「光拠点ネットワーク研究」において5つの参画研究機関の1つとして選ばれ研究活動を進めています。私立大学から参画している唯一の研究室です。学内では,先導研究所に「先端光波制御研究センター」を開設し,斎木先生(電子工学科),佐々田先生(物理学科),田邉先生(電子工学科),早瀬先生(物理情報工学科),渡邊先生(物理学科),と連携した研究活動を進めています。

 我々の研究成果は,国際会議,英文論文誌で発表され,その成果は多くの外国の研究者にも認められています。これまでに発表してきた公刊論文数は200件を越えます。育てた博士課程修了者は12名になります。

 今や,フェムト秒レーザのベクトル波形を制御できる我々の研究室の計算機制御フェムト秒レーザ技術その様々な応用展開力は世界一の性能を誇っています。学生は,修士課程に進んで国際会議に出席して,有名な研究者と話しをして,今までの先輩の業績のすごさをあらためて知らされます。そして,競う研究の面白さに魅了されます。でも,決して今までの学生が特別だったわけではありません。3年生の諸君も同じように活躍できるのです。研究意欲を高めてくれるような環境と,学生間の切磋琢磨,自己への厳しさ,そして正しい指導があれば。神成研究室は,そういう研究室です。

 我々の研究室は,実験系の研究室であり,人間関係,師弟関係を通じた技術・学問の伝承が不可欠です。

先輩が後輩の面倒をみてチームの研究をマネージメントしていく能力こそ,社会に出てリーダとして活躍していくための素養です。研究室を自ら作り上げていこうという意識もまた,上に立つ人間に必要な感覚です。また,実験を通じて,資材の選択・購入から,実験装置の構築,維持を通じて,驚くほど多くのノウハウと工学スキルを身につけます。それは,光学の分野だけではなく,電子回路,デジタル信号処理,化学,機械工学まで幅広い範囲に及びます。 研究室の先輩諸君は,実に面倒見が良く,厳しい中にも楽しく研究生活を送っています。

是非,そういう研究室の雰囲気を見学しに来てください。