フェムト秒レーザーパルスの時空間制御技術開発と
制御された物質と光の相互作用の開発
研究ミッション
フェムト秒レーザーパルスは,インパルス的な物質励起を可能とし熱拡散時間よりも桁違いに短い時間に局所的な高励起を実現できるだけではなく,ピークパワーが非常に高くできることから非線形光学を容易に起こすことが可能となり,多光子吸収で高いエネルギー準位への励起が可能となる。また,パルス幅短いことはスペクトル幅が非常に広いことを意味し,この広帯域スペクトルを用いた物質との多様な相互作用の可能性も生まれる。つまり,パルスを構成する幅広いエネルギーの光子を時間的に遅延させることで,瞬時周波数が時々刻々変化する“周波数チャープ”パルスを生成できる。
我々は,この任意に瞬時周波数を整形したレーザーパルスを発生するフーリエ波形整形を,コンピュータ制御によってプログラムできる技術として構築した。さらには,瞬時のパルスの偏光をも整形できるベクトル波形整形技術にまで拡張した。
フェムト秒レーザーパルスは,このように電気パルスのファンクションジェネレータのような機能を付加することが可能になっており,この機能をいかに物質との相互作用制御に用いるかというステージにある。
我々は,このフェムト秒レーザー波形整形技術をエタノール分子の解離性イオン化実験に用いた経緯がある。パルス幅によって電子励起準位に形成された振動核波束のポテンシャル曲線における運動を制御し,分子解離を制御できることを明らかにしたが,周波数チャープによる制御性は見いだせなかった。この実験に用いたレーザーの帯域は40 nmであったが,この程度の帯域での光子エネルギーの変化は2.5%程度でしかない。これでは,この範囲で光子エネルギーが異なる遅延時間で到達しても物質の分極応答にはほとんど差異は生じない。
そこで,この帯域幅を数100 nm領域に広げ,光子エネルギーが数10%変化する超広範囲な光パルスの周波数チャープを任意に制御する技術が,本手法を用いた物質との相互作用制御の鍵である。この技術を達成するために,以下の要素技術の開発とその統合を行う。そして,光と物質の相互作用制御に向けた次なるステージへのステップをきる。
これまでの要素技術開発
- チャープパルス増幅による高強度フェムト秒レーザーパルス発生
- 希ガス中空ファイバを用い,基本波および2倍波を用いた自己/相互位相変調を用いた,
波長300-900 nmの超広帯域白色パルスの発生 - 超広帯域白色光パルス用波形整形器の開発
- 整形された超広帯域白色光パルスの計測手法の開発
- 超広帯域白色光パルスの波長変換による紫外,中赤外波長域への展開
周波数チャープ再生増幅器および多重パス増幅器
希ガス封入中空ファイバによる超広帯域パルス発生
超広帯域白色光パルス整形器