フェムト秒超高速ストリークイメージング
研究ミッション
研究ミッション
フェムト秒~ピコ秒領域は,分子振動に関連した超高速現象やキャリア緩和等のダイナミクスが存在するが,これまでは,フェムト秒レーザーパルスを用いたポンプ・プローブ法によってマルチショットでのみイメージングされてきた。当然,ポンプ・プローブ法は時間遅延を走査した繰り返し計測法であるため,同一の現象が精度良く再現できる現象に限られる。これに対して,受光面での光電子を高速に偏向するストリークカメラは,シングルショットの計測が可能であり,最近では時間分解能200 fsでサブピコ秒の現象を計測できる装置が開発されている。しかし,極めて高価な装置であり,また最大掃引周波数は100 Hzと連続撮影には不向きである。
我々が長年にわたり開発研究を行ってきたフェムト秒レーザーパルスのフーリエ波形整形法では,光パルスの周波数成分の群遅延を制御することでパルス整形を実現するため,瞬時周波数と時間が一対一の関係になる。すなわち,瞬時周波数と時間が正確に対応した広帯域光パルスをプローブパルスとして用いた場合,分光された周波数成分の空間イメージはその周波数成分がプローブした時刻の瞬時イメージになる。すでに,空間的1次元のイメージを取得できるイメージング分光器は広く用いられているので,このイメージング分光器との組み合わせにより,光学手法のみで超高速ストリークイメージングを実現する。
周波数チャープパルスを用いた超高速ストーリークイメージングの原理
分光器の周波数面(フーリエ変換面)において,スペクトル幅の広いフェムト秒レーザーパルスの周波数振幅・位相を操作し時間パルスを整形する手法は,電気的にプログラマブルな液晶空間光変調器を用いて広く用いられている。これは,周波数⇔時間変換に相当するが,フーリエ変換面という空間での信号変調であるので,時間⇔空間変換にも相当する。この時間⇔空間変換を利用するとさまざまな新たな計測手法を考案できる。
フーリエ面を物質と光の相互作用面と捉えると,その相互作用の結果生じた振幅・位相変調を時間パルス波形に変換して伝送できる。受信側でパルスの振幅・位相を計測することで空間情報をアナログ伝送可能になる。このアナログ伝送方式は,1999年に我々がフェムト秒レーザーではなく,広帯域光のコヒーレンス関数で空間位相をアナログ伝送する方式として提案しファイバ伝送を実験実証した。ただし,この方式では,フーリエ面では周波数は1次元方向にしか分布しないため,2次元空間イメージの伝送には,フーリエ面で1次元方向に光を走査しなくてはならない。最近,2次元面に周波数分布したフーリエ面の生成が可能になり,2次元空間イメージをフェムト秒レーザーでアナログ伝送する手法がデモンストレーションされている。これらの手法の欠点は,1レーザーパルスで1イメージしか伝送できない点にあり,高速イメージには高速パルス列が必要になる。一般に,モード同期レーザーを用いてもそれは1 GHz以下になる。
イメージング分光器の帯域幅Δλwと分解能δλをフルに利用しようとしたときに,観測時間幅ΔTwと時間分解能δtの比δt/ΔTw= δλ/Δλwが決定され,レーザー光パルスに要求される性能が決まる。すなわち,レーザー光パルスのスペクトル幅がΔλwと同程度である場合,分光器で決まるδt/ΔTwを過活用することができる。帯域幅Δλwと観測時間幅ΔTwの対応は,そのまま波長分解能δλと時間分解能δtの対応になるが,これはスペクトル幅Δλwの広帯域光パルスを周波数チャープによってどのくらいの時間幅に伸長するかで決まる。そこで,この条件に適した広帯域光パルスの発生と,自在でかつ広域な高精度線形周波数チャープ化が本手法高性能に実現するために必要となる。例として,スペクトル幅300 nmの光パルスを100 psまでパルス伸張し,分解能0.5 nmのイメージング分光を行えば, 167 fs分解能で100 ps間の1次元イメージングを1ショットで得られる計算になり,これは十分に実現できる数字である。
サブピコ秒の分解能で数10 ps~数ns領域での連続的変化をイメージングすること嘱望される超高速物理は数多く存在する。たとえば,フェムト秒レーザー励起相転移,フェムト秒レーザー励起フォノンポラリトンの表面伝播,フェムト秒レーザー励起非線形屈折率変化,フェムト秒レーザー励起キャリア緩和特性の半導体表面分布,等である。